下半身の安定性を構築する -動的システムトレーニングの原則と注意点-

下半身の安定性を構築する -動的システムトレーニングの原則と注意点-

運動を安定したパフォーマンスで遂行するために、下半身、特に骨盤の制御は大変重要になります。
骨盤をコントロールすることは、下半身だけではなく、体幹を含めた上半身にも影響を及ぼすからです。今回は、骨盤の制御を伴った下半身の安定性構築のためのアプローチをご紹介いたします。

膝周りの安定性への要求を考える

膝周りの安定性は高強度動作中、共収縮と呼ばれる様式で担保されます。
共収縮とは、主働筋と拮抗筋が同時に収縮することにより、関節を安定させるメカニズムです。この収縮メカニズムは、複雑な環境下や時間制約のある局面で自己組織化され、安定したパフォーマンスを実現します。

例えば、バスケットボール選手の減速動作を考えてみてください。前方、または側方に加速したアスリートが片脚でストップ動作を行う場合、踏み込み、接地という一瞬のタイミングで、アスリートの膝は非常に強力な衝撃を受けることになります。

実際、ACL損傷は初期接触から50ミリ秒以内に発生すると推定されており、より精密な測定ではACLの最大ひずみに達する平均時間は53±24ミリ秒で、範囲は48~61ミリ秒であることが明らかになっています(Bates et al., 2020)。非接触型ACL損傷は初期接触から0~61ミリ秒の間に発生すると予想される(Bates et al., 2020)という事実は、この極めて短い時間枠での膝関節保護の重要性を示しています。

このわずか50-60ミリ秒という時間は、意識的な筋収縮や動作修正が間に合わない超短時間であり、膝関節を守るためには着地前からの適切な神経筋制御と筋活動パターンの準備が不可欠となります。したがって、アスリートの傷害予防においては、この瞬間的な負荷に対応できる事前の身体準備と着地技術の習得が極めて重要なのです。

安定性構築の動的システムトレーニングにおける原則と注意点

私たちが上記のような安定性のためのトレーニングを考えていくとき、忘れてはならない原則があります。

1. アトラクターをベースとしてトレーニングを構築する

Calibrate Sports がお届けするトレーニングでは、従来の固有受容性フィードバックをもとにしたトレーニングも可能ですが、上記に示したような ACL 発生時などにかかる負荷を想定した場合、動作のアトラクターを考慮してトレーニングをする必要があります。特に、ACL 受傷などを考えた時には 方向転換や減速時のアトラクターである「ヒップヒンジ」や「交叉性伸展反射」などに注目していく必要があります。(その他にも我々が目を向けるべきアトラクターは存在します)

アトラクターとフラクチュエーションに関しては、国内で開催されている講習会(STC:Strength Training & Coordination)や Frans Bosch 氏の書籍で詳細をご覧ください。

2. ポジションではなく、コンディションを鍛える

"Train Conditions, Not Position." - Randy Sullivan

フロリダで野球選手の育成に特化したした施設、Florida Baseball Armory の CEOである ランディ サリバンは、上記の言葉を述べました。
我々がアトラクターをトレーニングする際に、特定の関節角度や姿勢を限定した 「ポジション」ではなく、どのように機能しているのか?という視点での「コンディション」を鍛えるべきであるという言葉です。

例えば、「減速動作時の膝の角度はこの角度!」と一定のフォームを決めてしまうと、置かれた環境がその角度に適していない場合(例えばテニスでは、さまざまな高さに相手のボールが飛んでくるため、膝や股関節の屈曲角度は状況に応じて可変的でなければなりません)

多くの場合、安定した下肢の減速動作は減速局面において、膝と股関節の屈曲や伸展が連動しています。つまり股関節が曲がれば膝も曲がり、股関節が伸展すれば膝も伸展するということです。それらは文脈に応じて必要な動作のあり方に調整され、最終的な関節角度が決定されます。つまり、我々が動作をトレーニングする場合、あらかじめ理想的な関節角度(ポジション)を指定して行うことは、さまざまな文脈での制御を可能にすることはできないということです。我々は動作の機能(コンディション)に注目する必要があるため、安定した "機能" である共収縮を導くトレーニングが求められます。

 

3. 分散型の制御(ボトムアップ制御)で遂行される

上記に示した「アトラクター」や「その機能」を鍛える際に、どのような制御方法でそれらが行われているのか?が大変重要になります。

トップダウンの中枢からの指令をもとにした制御なのか?
ボトムアップでの分散型制御なのか?

ここで私たちが注目しなければいけないことは、多くのパフォーマンス発揮局面において、中枢からの指令をもとにした制御方法では保護するための動作が間に合わないということです。あらかじめどのように動くかをプログラムした形でパフォーマンスを発揮するとしたら、変化する環境に適応することができずに、その文脈に適したアトラクターを出現させることができません。パフォーマンス発揮時に必要な制御(Preflex, Cocontraction, Reflexive Control など)を理解することで、分散型制御が如何に障害予防に重要かを知ることができます。

そのため、「アトラクター」をトレーニングする際に、トレーニングやエクササイズが分散型制御をもとにしてデザインされているか?を注目していきましょう。

 

どのように実行するか?

本日は、上記の三つの原則を含んだ Calibrate Sports が提唱するエクササイズの例をご紹介いたします。

CHAOS®︎ AquaBall - AGAINST WALL SL

この種目では、地面に接地している脚の共収縮をトレーニングします。選手の意図は「強くボールをパンチすること」です。どの方向にパンチをしたとしても、このポジションを維持するために、膝周りの共収縮は自己組織化されます。

 

CHAOS®︎ AquaBag - Woodchoper

この種目は、前方にステップする足の "接地時の安定性" をトレーニングします。接地のタイミングで AquaBag をチョップすることで、下半身だけではなく、体幹部にも水平面での負荷を加え、より多面的な安定性の獲得を促します。

 

CHAOS®︎ Ball Stability System  - Split witch

このエクササイズは、Bungee Band による回旋の負荷を制御しながら、足首を含めた下半身の安定性を構築する際に非常に有効に活用できます。特に、加速期における下腿のスティフネスには、ヒラメ筋を主とした剛性が必要になり、長軸方向のねじれに対しての下肢制御も含めて鍛えていきます。

 

上記のエクササイズはすべて、予測不可能な外乱に対処するための下半身の制御メカニズム(無意識下での Preflex や Cocontraction)を引き出すことが可能であり、実際のパフォーマンス発揮中の文脈を考慮したアプローチとなっています。

この記事でご紹介したように、実際にスポーツパフォーマンス中の状況を分析することで、より実践的に アトラクター(安定性)のトレーニングを行うことが可能です。

下半身の安定性を構築したいアスリートの皆さん、トレーナーの皆さんは、ぜひ Caliobrate Sports のツールを活用したトレーニングをご検討ください。

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